禅と書道の狭間で:三人の師に学んだ

太筆 書道
太筆

55年の書道人生と、60歳からの新たな挑戦

はじめに:「書道でお金を稼ぐな」
という教えの真意
二松学舎大学で書道を学んだ私は、
恩師・故寺山旦中先生から
一つの厳しい教えを受けました。

「書道でお金を稼ぐな」

この言葉は、書道で生きていこうと
決めた若き日の私にとって、
重い足かせとなりました。

なぜなら、書道で生きるということは、
書道でお金を稼がなければ
続けられないという現実があるからです。

しかし私は同時に、
日展系列の先生からも指導を受けており、
そこでは「書道でお金を稼ぐ」ことを
実践していました。

二つの相反する教えの狭間で、
私は長年苦しみ続けることに
なったのです。

この記事では、55年間の書道人生を通じて、
三人の偉大な師匠から学んだこと、
そして60歳を迎えた今、
ようやく辿り着いた境地について
お話しします。

三人の師匠、三つの教え:

書道の多様性を知る

寺山旦中先生:
禅の精神に根ざした「くせ取り」の書
寺山旦中先生は、
禅の精神を書道に体現された方でした。
先生の教えの核心は
「書道はくせ取り」という言葉に
集約されます。

妙な線の誇張や、
奇を衒った表現を
徹底的に否定されました。

筆の正しい流れに準じ、
一切の癖がない、嫌味のない作品。

それは禅の教えそのものでした。

先生が「書道でお金を稼ぐな」と
仰った真意は、おそらく
金権まみれの書道界に対する
警鐘だったのでしょう。

商業主義に染まれば、
禅の書道が成し遂げられない。

純粋な精神性が失われる。
そう考えておられたのかもしれません。

日展系列の先生:

展覧会芸術としての書道
一方、日展系列の先生からは、
まったく異なるアプローチを学びました。

展覧会で入選し、
上位に食い込むための技術です。

個性の確立、線の誇張、見せ方の工夫。
これらは展覧会という舞台で
評価されるために必要な要素でした。

ただし、古典に関しては厳格で、
古典を異なった目線で
誇張して書くことはしないという、
正しい視線でのご指導でした。

先生の作品は
常にアートギャラリーに飾られ、
書道が現代アートとして
成立することを示していました。

筆耕の一流の先生:

実用書道の極致
大学を卒業後、
どうしても書道で生計を立てたかった私は、
筆耕の道に進みました。

最初に入った筆耕会社では、
明朝体ばかりを学習させられました。
しかしその会社は経営が傾き、
倒産してしまったのです。

その後、一流の筆耕の先生のもとで
修業する機会を得ました。

先生の教えは明確でした。
「同じ筆耕でも、書道で筆耕は書け!」

日本の仮名には相当な意匠があり、
古典に準じていなければならない。

しかし筆耕という性格上、
古典を現代の人にもわかるように書く。
いわば「古典の現代版」を
追求する世界でした。

先生は元々古典を勉強していた私を
気に入ってくださり、
厳しく鍛えてくださいました。

葛藤の日々:

三つの教えを同時に解釈する苦しみ
三人の師匠は、それぞれ
正しいことを教えてくださいました。

だからこそ、どの教えが優れているかなど、
優劣をつけることはできませんでした。

普通は一つの会派に属して
何十年も過ごせば、
もっと幸せだったのかもしれません。

しかし私は、素晴らしいものは
すべて採り入れようとしました。

それが良くも悪くも、
私の書道人生を複雑にしたのです。

家庭を持ち、収入を安定させなければ
ならない現実。

そのため、先生のもとを
出たり入ったりすることも多くありました。

読売書法展などで賞をいただくことも
ありましたが、それでも心の中には
常に葛藤がありました。

実家の修理業にも熱中し始めたり、
実に中途半端な書道人生だと
自分でも思っていました。

修理業の収入がある
一方で、書道での収入は
ほとんどありませんでした。

35年の筆耕経験が教えてくれたこと
筆耕の世界では、
寺山旦中先生の教えを守り続けました。

誇張した表現はしない。

なぜなら、筆耕で誇張した表現をすれば、
お客様に読めなくなってしまうからです。

葬儀の大型看板の揮毫など、
35年間の筆耕経験を通じて、
私は実用と芸術の境界線を
歩み続けました。

そして気づいたのです。

三人の師匠から学んだおかげで、
あらゆる字を見て、
どこが良いか悪いかを
判断できる目が養われたことに。

寺山旦中先生の
「書道で金を稼ぐな」という教えに
反して筆耕で生活していましたが、
それは矛盾ではなく、
むしろ禅の精神を実用の世界で
実践することだったのかもしれません。

60歳からの新たな挑戦:

藤井工芸書房の立ち上げ
そして私は60歳になりました。

修理業は半自動化に成功し、
熟練した職人に仕事を委託することで、
時間的余裕が生まれました。

月に数件の問い合わせがある程度ですが、
安定した収入源となっています。
20年間抱え続けていた
「書道でお金を稼いではいけない」
という心理的ブロックを、
ようやく乗り越えることができました。

現在、「藤井工芸書房」
fujii-shobou.com)を立ち上げ、

企業ロゴの揮毫や箱書き、
装飾トラックの文字など、
商業書道の分野に
本格的に取り組み始めています。

先日は江戸切子の職人さんから
初めての箱書きの依頼も
いただきました。

また、PIXTAなどの
ストックフォトサイトに
書道作品をアップロードし、
デジタル販売も始めています。

毎日の練習作品を撮影して販売する
「練習ベース収益化戦略」も展開中です。

これから追求する「自分の書」
三人の師匠から学んだすべてが、
今の私を形作っています。

  • 禅の精神に根ざした純粋さ。
  • 展覧会芸術としての表現力。
  • 実用書道の確かな技術。

これらすべてを統合した「自分の書」を、
これから追求していきます。
SEO技術を駆使した
ウェブサイト運営と、
55年間磨いてきた書道技術。
この二つの強みを活かして、
書道の新しい可能性を
開拓していくつもりです。

寺山旦中先生の教えは、
商業主義に溺れるなという戒めであって、
書道で正当な対価を得ることまで
否定されたわけではなかったのだと、
今なら理解できます。

60歳からの挑戦は、
決して遅くはありません。

むしろ、長年の経験があるからこそ、
本当の価値を提供できるのだと
信じています。


【筆者プロフィール】
藤井直樹(藤井工芸書房主宰)
二松学舎大学書道科卒業。
書道歴55年、筆耕経験35年。
寺山旦中先生、日展系列の先生に師事。
読売書法展など多数受賞。
東京都江戸川区で修理業「藤井商店」を
経営しながら、60歳で本格的に
書道ビジネス「藤井工芸書房」を
立ち上げる。

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