AIを使った書道 デザイン書道は世間で重宝されているのか?

書道55年の経験から語る
– AI時代に問われる真の書道の価値
はじめに – AIに書道はできるのか?
55年間書道に打ち込み、
そのうち35年間を筆耕として過ごしてきた私が、
今最も関心を寄せるテーマの一つが「AIと書道」の関係です。
現在のAI技術では、
真の意味での書道を実現することは
不可能だと断言できます。
なぜなら、AIは「脳」はあっても「身体」がないからです。
もしAIが書道を行うとすれば、以下の課題をクリアする必要があります:
AIが乗り越えるべき技術的課題
1. 高度なロボット技術の開発 まず、
人間の手の動きを完全に再現できるロボットの製作が必要です。
2. 繊細な指先感覚の習得
- 筆の大小に応じた適切な持ち方
- 指と筆とのタッチ感
- 紙や布への筆圧の微調整
- 墨量の濃淡を瞬時に判断する能力
- 空間の広さを正確に捉える感覚
これらの感覚は人間だからこそ理解できるものであり、
機械的な処理では到底及ばない領域なのです。
実用書道と芸術書道の使い分け
日常の実用書道
私の普段の字は決して美しいとは言えません。
仕事での走り書き、メモ書き、納品書、領収書など、
時間との勝負になる場面では美しさよりも
スピードが優先されるのが現実です。
しかし、丁寧な書簡や賞状、封筒を書く際は
意識が完全に切り替わります。
きちんとした筆法で、相手に失礼のない文字を書くことができます。
デザイン書道への疑問
近年、インターネット上で「デザイン書道家」を名乗る若い方々の
作品を目にすることがありますが、
率直に申し上げて疑問を感じることが少なくありません。
古典に基づかない、
いい加減な書法で人前に作品を発表することは、
書道の本質を見失った行為だと考えています。
派手なパフォーマンスなど不要です。
また派手なパフォーマンスをしている書道家の
普段の毛筆作品の姿も見るべきです。
※これが出来ていない人が多く存在するのも事実です。
書道は学習に終わりがありません。
書道家を名乗ることの重み
私自身、「書道家」と名乗ることには慎重になります。
なぜなら、書道の真の価値を理解しているからこそ、
その重責を感じるからです。
書道の本質とは
書道は目的ではなく、結果です。
その人物が何かで成功を収めたり、
人徳を積んだ結果として、
書道が評価されるものなのです。
総理大臣など重責を担ってきた方々の書に見応えがあるのは、
まさにこの理由によります。
文字を書いた人の人格が、そのまま書に表れるのです。
筆耕で学んだ実践的な書道
35年間の筆耕経験を通じて、
「見栄え良く書く技術」を身に付けました。
筆耕の世界では、美しくない字を書けば即座に失職となります。
線に軽さだけ目立つようでは書き手としては失格です。
この厳しい現実が、私の技術を磨き上げてくれました。
また、線の重さの厳しさは大学時代の恩師に
厳しく指導されました。
プロとしての基準
- 公募展での評価に耐える「まとまりのある字」
- 古典に基づいた正統な書法
- 相手に敬意を示す美しい文字
これらの基準を満たさない限り、
プロとして活動することはできません。
書いた文字が読める教養も必須です。
書道で生計を立てることの困難
書道だけで生活することの厳しさを理解している
真のプロは、書道以外の分野でも研究を重ねています。
成功例から学ぶ
- 石川九楊氏 – 古跡の学習を通じた論文執筆
- 棟方志功 – 彫刻家としての活動と並行した書道
- 白隠禅師 – 禅僧としての修行が書に反映
- 山岡鉄舟、勝海舟、高橋泥舟 – それぞれの本業での成功が書道の価値を高めた
彼らに共通するのは、
書道を生業としていたわけではないということです。
師匠から学んだ真の教え
私の師匠は書道の技術だけでなく、
「文字を書く精神」「人間のあり方」を重視して指導されました。
一方で、展覧会書道家の中には金銭的な成功のみを追求し、
高い賞を求めて生徒を集めることで生計を立てている方々も存在します。
まとめ – 書道の真の価値
書道は人格を表現するために存在しています。
もし「汚くても構わない」という考えをお持ちなら、
書道を習う時間を他の重要なことに使った方が、
よほど有意義でしょう。
私自身、豊かになりたいという気持ちはありますが、
金銭的な利益のみを追求した書道は決して好きになれません。
真の書道とは、その人の生き方そのものが
文字に表れる芸術なのです。
AI時代だからこそ、この人間にしかできない
表現の価値を改めて見つめ直すべきではないでしょうか。
この記事は55年間の書道修行と35年間の筆耕経験に基づく実体験をもとに執筆されています。
書道を学ぼうとする方、すでに学んでいる方の参考になれば幸いです。
鉄筆堂
📍 江戸川区
📝 書道歴55年・筆耕歴35年
🎓 高等学校教員経験あり
✍️ 賞状・封筒・布・垂れ幕まで対応